愛しのフェイクディスタンス
「……はぁ、高かった」
雅人の暮らすマンションの比較的近くにあるスーパーマーケットは、無農薬の野菜なんかを置いていたり、まあ何というのか意識が高いんだなって感じの品揃えで。
それなりの値段でものが売られているし、それを求めてくる客層によって成り立っているようだ。
『出かけたいならタクシーを使うんだ』と過保護な雅人らしいことを言われていたのだけれど、歩ける距離でタクシーを使うのも慣れないなと。
優奈は食材を詰め込んだエコバッグを片手に、行きと同様帰り道もゆっくりと歩いて雅人のマンションへ向かっていた。
ちょっと冷えてきたなぁ。と、よそ見をしてしまった時だ。
目の前の角を「今からパーキング戻るんでちょっと待ってくださいって!」と、何やら大きな声を出しながら曲がってきた男性と。
「きゃ!?」
なんと思い切りぶつかってしまう。
荷物をドサドサと派手に落としてしまい、それを拾い集めながら「す、すみません」と謝罪の言葉を口にしていると相手も「いや!こちらこそすみません、怪我はないですか?」と。
まだ電話の相手の声が聞こえているのにも関わらず、その電話を一方的に切って優奈の目の前にしゃがみ込み一緒になって拾い集めてくれる。
歳は優奈よりも少し上くらいだろうか?
二重のパッチリした目元が羨ましくなる、綺麗な顔をしている男性だ。
髪の毛もくせっ毛なのだろうか。少しふわふわとしていて可愛らしい印象だけれど、細身のグレーっぽいスーツをピタリと着こなしていて、存在感のあるシルバーの腕時計も嫌味無く輝いている。
可愛いだなんて評価は失礼になるだろう、きちんとした身なりの男性だった。