愛しのフェイクディスタンス


 五階を降りてすぐ正面。
 木目調のカウンターがライトアップされ、受付の女性が、その顔も立ち姿も神々しく、そして美しく優奈を迎える。

 年齢でいえば優奈とそう変わらない気がするのに、落ち着いた雰囲気で。
 ベビーピンクのブラウスも嫌味無く着こなしていて、ハーフアップのヘアスタイルも、形の良い耳に輝く控えめなピアスも清潔感がありとてもお似合いだ。

 女性が「おはようございます」と、雅人に一礼すると、彼は特に色味のない声で「おはよう」と短く返した。
 歩き出さない優奈の腰に、再び雅人が優しく手を置き歩みを促す。
 受付を通り過ぎる前に「おはようございます」と、緊張のためか掠れた声で優奈が発すると、静かに会釈をされた。

(あああ、ダメ、こんな空気知らないってば緊張する!)

「最近は来客が多い時期には受付に人を置いてる。身構えなくていいよ」

(……ヤバいヤバい村野工務店とは全然違う)

 受付のすぐ横には、社名がペイントされた大きなガラス。いや、ガラス張りのカフェスペースのようだ。
 暖色系のペンダントライトが目立つそのスペースには自販機やコービーマシーンが見え、色とりどりの丸椅子やソファーが。
 優奈のこれまでの職場を思い返すと、仕事場というよりもオシャレなカフェにお茶に来てしまったのかと錯覚する。

「こら、優奈。聞いてるのか」
「は、はい!!」

 雅人が耳元で少し大きな声を出した。
 圧倒されて意識が飛んでいたらしい。

「優奈、受付横の機械でもう一度社員証置いて。横は休憩用のカフェスペース、そのまま隣は応接室や会議室に営業企画、この辺は社内外問わず出入りが多いから」
「……は、はい」
「後できちんと案内させるけど、大半の社員は企画にいるエンジニアと営業」
「はい」

 緊張している優奈を気遣ってか、頬を撫で「今のところは、まだ俺が把握してる人間ばかりだから。おかしな奴はいないはずだぞ」
 そう言って、安心させるように笑った。
 余裕のない優奈は、こくこくと雅人の言葉に何度も頷く。

 雅人はそんな優奈を見て嬉しそうに微笑んだ後、受付へ近付き女性と一言二言交わした後、再び隣に戻って。
 当たり前のように今度は肩に手を置いた。

 受付の女性はじめ、やはりここでも行き交う人々の視線を感じ何とも居心地が悪い。

(わかるよ、わかります。距離感おかしいですよね)


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