愛しのフェイクディスタンス





***



「優奈ちゃん、朝はごめんね。どう? 奥村くん話しやすい子でしょ」

 マキが、パスタをくるくるとフォークに巻き付けながら言った。
 昼前に戻ったマキと入れ替わるように外出した奥村を見送ってから、優奈は彼女と共にビル近くの店までランチに誘われて出てきていたのだが。

(お昼に、パスタとか何年ぶり……)

 村野工務店では、コンビニのおにぎりや持参のゼリーなどをデスクでひとり寂しくポツッと食べているだけだったものだから。
 ……実は少し感動している。

「はい。仕事の説明もすごく丁寧で有り難かったです」

 優奈の返事にマキはふふっと笑い声を小さく響かせる。

「あれで、優秀よ。まだ二十七? だったかな。高遠くんやコタが信頼して仕事を任せてるんだもの」
「そうなんですね」
「あの二人とよく一緒に行動してるから、注目もされるし見た目もいいでしょ。なかなかモテるわよ」
「なるほど……」

 マキの奥村への発言の意図が掴めず優奈は曖昧に受け答えをした。

「高遠くんよりも、私個人としてはね、奥村くん推すけどなぁ」
「え!?」

 驚きのあまり目立つ音を立てフォークを落としてしまう。
 混み合う店内からの視線が痛い。
 慌てて「すみません……」と縮こまって謝罪するとも、相変わらずマキは微笑み続けていた。

「後ろからちょっとの間二人のこと見てたけど、朝ね。高遠くんの過保護っぷりには笑けたけど、優奈ちゃんもわかりやすいわよね」
「あの……」
「高遠くんが好きなんだ?」

 その声は、優奈を探るように深く、目は射抜くように強く。

「……はい、すみません」

 何故か謝ってしまった優奈に、マキは一点空気を軽くしケラケラと笑い声を上げた。

「あはは、いーのいーの。確認しときたくて凄んじゃった、ごめん。高遠くんに引きずり込まれちゃって大変ね」
「……いえ、本当は自分なんかが入って来れる会社じゃないってわかってます」

 うーん、とマキは小さく唸る。

「まあね、何もかもすっ飛ばしていきなり高遠くん直々に連れてきた子だからね。人事も大騒ぎだったけど」
「はい……」

 半日いただけでも、これまでの環境と違いすぎて優奈は早くも場違いだと感じ取っていたのだが。

「ま、高遠くんのことはさて置き、そこは何か言われることもあるかもだけど。仕事して黙らせておけばいいわよ」

 「これから覚えることたくさんで大変よ〜!」と、キレイな顔面をくしゃりと歪ませて豪快な笑顔を見せたマキ。

「頑張ります!」
「うんうん」

 雅人が与えてくれた新しい道を、どう歩くかは自分次第なのだと、そう思い出させてくれる頼もしい笑顔だった。



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