愛しのフェイクディスタンス
動き出す恋
「優奈、まだ起きてたのか」
その夜、雅人が帰宅したのは日付をまわって暫くしてからだった。
「まーくん、おかえりなさい!」
キッチンで後片付けをしていた優奈は喜びを抑える事なく帰宅した雅人に飛びついた。
「ただいま」
声こそ優しいが、優奈の頭に伸びた手はほんの少し髪を撫で、すぐに引き剥がされてしまう。
(つれないなぁ!)
「明日も早いんだから早く寝るんだ」
「それはまーくんもでしょ」
「俺はいつものことだから、平気なんだ。優奈はダメだろう」
よくわからない根拠で優奈だけが責められた。
「そうだ、奥村はどうだ?」
ジャケットを脱ぎ、腕時計を外しながら突然雅人は奥村の名を出した。
「奥村さん? すごく親切だったよ。さっきも明日朝イチいないこと伝え忘れてたって電話くれて」
「電話? あいつと連絡先の交換が必要か? 時間外にやり取りする必要は今のところないだろう」
雅人は大袈裟に眉根を顰める。
「え、でも普段から出入り多いから念の為って……まだわからないことばかりだし」
「マキで構わないだろう」
「そっか、うん。でも聞かれたし」
どうしてだか不機嫌になった雅人が「奥村の連絡先って、どの番号?」と、優奈に問いかける。
テーブルの上に放置していたスマホを見て番号を伝えたなら、再び眉を動かした。