愛しのフェイクディスタンス








***


「優奈ちゃん、来週高遠くんの予定空きある?」
「……えーっと、埋まってます」
「どこか何とかできない? どうしてもねじ込みたいって」

 優奈が入社してから、引き継ぎをしつつ人事部へ足を運ぶことが多いマキ。
 今も、そんなマキからの内線に対応していた優奈。
 わたわたと焦りながらモニターと睨めっこしていると、操作するマウスの隣に突如手が置かれた。

 今この経営企画のフロアには優奈しか残っていなかったはず。一体誰のものだとぎこちない動きで恐る恐る見上げてみれば、ふぅ……と息を吐きながらネクタイを緩めつつ、優奈と同じモニターに視線を向ける奥村の姿があった。 

 今日は朝から営業推進本部の会議に出ていたはずの奥村だが、戻ってきてくれたようだ。

(こ、心強い……)

 斜め下から見上げる横顔。
 にも関わらず、一瞬の隙をつき隠し撮りしたって美しいシルエットだろう。
 マキにしろ、琥太郎にしろ、そしてこの奥村にしろ。雅人の近くにはなぜこうも華やかな人たちばかりが集まるのか。

(まあ、言うよね、あれだよ。類は友を呼ぶっていうやつ?)

「マキさんまた無茶な……。ああ、瀬戸さんここは? 俺と一緒の時だから最悪高遠さん抜けても大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます!」

 優奈が意識を飛ばしている間に、奥村は的確な指示をくれる。
 無事に予定を変更した後には。

「あとね、週末の接待は高遠くんとなかなか折り合い悪いとこだから。お店選び慎重にね、詳細メールで送ってるからドンピシャなとこよろしくね。店選び間違うとご機嫌急降下なとこなのよ」
「わ、わかりました」
「それと高遠くんから言われてるかもだけど、営業本部から会議用の資料出てないから急がせておいてね」
「はい!」

 嵐のような勢いのマキと通話を終え、優奈は背もたれに体重を預けた。
 安堵し、力が抜けてしまったのだ。



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