今日から君の専属マネージャー


「美鈴、大丈夫?」


「うう……気持ち悪い」


酔った。

電車酔いした。

ずっと下を向いていたせいで。

途中大きな駅で人が一気に降りて、車内には空席がいくつかできた。

涼ちゃんは指さして私に席をすすめてくれたけど、歩こうとすると足がふらついた。

それを涼ちゃんが支えてくれていた。

結局空席にたどり着く前に、家の最寄り駅についた。

続々と人が降りていくのを見送って、私は涼ちゃんに支えられながら最後に出た。

そして、ホームのベンチに倒れこみ、涼ちゃんに背中をさすってもらっているというわけだ。

涼ちゃんが私の背中をさする音に交じって、かすかに雨の音が聞こえてくる。


「え? 雨?」

「みたいだな」

「ああ、傘持ってないや」

「今日、天気予報で夜から雨って言ってたぞ」


そう言いながら、涼ちゃんは鞄から折り畳み傘を出し、それを私の手に握らせた。

そして自分のリュックを私に背負わせると、私に背中を向けてひざまずいた。


「ほら、乗れよ」

「え?」

「負ぶってやるから」

「でも……」

「今さら遠慮するなよ」


優しいその言葉にすがりつくように、私はその広い背中に飛び込んだ。

涼ちゃんの匂いと温もりに触れて、体の力がほろほろと抜けていく。

涼ちゃんの首に巻き付けた腕に、思わず力をこめた。

キャップからはみ出る髪が、私の頬をチクチクとさす。

だけど、痛くない。

なんだかくすぐったい。

もっと、すり寄りたい。

首元から漂う涼ちゃんの匂いや温度に、とろけそうになる。

それと同時に、情けなくもなる。


「ごめん、涼ちゃん」

「え?」

「負ぶってもらってばっかで。お荷物増やして」

「美鈴は荷物に入んないよ」


その優しい言葉に、さらに首元に顔を寄せた。


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