イノセント・ハンド
『さぁ、着いたよ。』

風井が紗夜に微笑む。


『風井警視。とてもいいところとは思えませんが、こんなところで、私をどうするつもりですか。』

『なに?』

風井の表情が、一瞬驚く。

『分かっていましたか。たいしたものですね。目が見えないのに。』

車を降りた風井が、助手席のドアを開ける。

『さぁ、いいところですよ。静かで。誰も邪魔するものもいませんので。』

紗夜がゆっくり車を降りる。

『誰もね・・・。総監もいるじゃありませんか。』

影から、風井英正が現れる。

『ほんとに、君には驚かされるよ。竜馬、銃は?』

『持っていません。』

紗夜を車に乗せる際、彼は紗夜の腰と胸部を確認していた。

『腹黒い紳士ね。』

紗夜を車のライトが当たる場所へと導き、二人は少し離れた。


『さて、君はもう全て知っているのかね?』

英正が問う。


見えない目で二人を見渡し、紗夜がゆっくり、右手の黒い手袋を外す。

そして、傷跡だらけの手のひらに、手袋の中から、あるものを出した。

『ほら。』

それを竜馬へと投げる。

『パシ。』

反射的に受け取る竜馬。

掌の物を見て、顔がゆがむ。

『こ、これは!』

『忘れはしないよ、竜っちゃん(たっちゃん)。』

つぶやいた紗夜が・・・変わった。

『ひゃぁ!』

17年前、東の耳にあったピアスを風井は放り投げた。


『やはりそうか。どうやってあの二人を殺した?』


『ヒヒッ・・・』

紗夜の中で、少女が小さく笑う。

『教えてやろうか。』

紗夜が右手を英正へ向ける。

『ぐあっ!!』

首に何かがめり込み、英正の体が宙に浮く。

『や・・・やめろ!りょ・・・ま。』

息子に助けを求める英正。

しかしその時、竜馬は想像を絶する恐怖に直面していた。


『な・ぜ・こ・ろ・し・た』


竜馬の目の前に、恨みに顔を歪ませた少女がいた。

『や・・・やめろ!来るな!!』

後ずさる竜馬。

恐怖に足がもつれ、後ろへ転ぶ。
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