イノセント・ハンド
窓の外を見つめる宮本に、紗夜が声をかけた。


『ねぇ、ジュンさん。こっちへ来て。』

そばの椅子に腰を下ろす宮本。


『なんですか?』

その顔を見つめながら、紗夜がゆっくり左手を伸ばす。

少し照れくさそうに、宮本がその真っ白な手を取る。

『ジュン。』

『な、なんですか、かしこまって?』


宮本の温もりを感じる紗夜。

紗夜の鼓動を感じる宮本。

そのまま彼を引き寄せる。

彼も自然にそれに従う。

そっと、優しく、二人は唇を重ねた。

紗夜の頬を、また涙が伝う。

ゆっくり離れる二人。


『サヤさん。』


『サヤでいいわ。ジュン。・・・ありがとう。』


照れながらも、優しく微笑む宮本。


『あっ!しまった。キスしたいって思ってたの、読まれちゃった?』

『アハハ。ええ。しっかり感じたわ。私も同じ気持ちだったから。』


涙を拭く。

『私なんかが恋人でも、いいの?』

『も、もちろん!!最初っから気にいっちゃってて・・・』

『あらぁ~?タイプじゃなかったんじゃ?』

『げっ!いや・・・あれは?』

焦る宮本の顔は真っ赤であった。

『この手じゃ、料理もできないわよ?』

至近距離で撃ちぬいた右手は、再起不能であった。

『俺、多分…料理好きだし・・・まだできないけど。大丈夫!これからは、俺がサヤの右手になり、目になるよ。』


また涙が溢れてきた。

『ジュン。もう少し近くで、寝不足の顔を見せて。』

『だから、あれはサキさんの冗談だって。』

引き寄せる紗夜。

『こんなに疲れた顔して・・・、この目の下のは、クマってものじゃないかしら?』

『そんなもんない・・・って、えっ?サヤ!見えるの?』


17年ぶりの
紗夜の笑顔が
そこにあった。


『よく見えるよ。ジュン・・・』


そう言って微笑むながら、二人はもう一度、深く唇を重ねた。
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