たとえ9回生まれ変わっても


「ねえ、わかってるでしょう。出て行った猫はもう帰ってこない。古いものは捨てなさい。これじゃあーー」

「ママ。もういいでしょ」

お母さんが困ったように止めに入った。

「もう、やめてあげて」

もう一度言われて、おばあちゃんは呆れたようにため息を吐いて、肩をすくめた。

理解できないわ、と言いたそうに。

写真の中のおばあちゃんは、優しそうに笑っていた。

わたしと同じ青い色の目をした女の人。

優しそうな人だと思った。
そうだったらいいな。
英語を話せなくても、たくさん話を聞きたいって。

会えるのを楽しみにしていた。
それなのに。


「……ごちそうさま」

わたしは立ち上がって食器を台所に片付けた。

「蒼乃」

お母さんが一度、呼び止めるように言ったけれど、それ以上何も言わなかった。

わたしは自分の部屋に戻って、布団に潜り込んだ。


『出て行った猫はもう二度と帰ってこない』


わかっている。
もうすぐシオがいなくなって一年経つのだ。

シオがもう家に帰ってくることはないことくらい、わたしだって、わかっている。

だけど、シオのことを知らない人にーー

おばあちゃんには、そんな風に言われたくなかった。

< 102 / 157 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop