たとえ9回生まれ変わっても
「ねえ、わかってるでしょう。出て行った猫はもう帰ってこない。古いものは捨てなさい。これじゃあーー」
「ママ。もういいでしょ」
お母さんが困ったように止めに入った。
「もう、やめてあげて」
もう一度言われて、おばあちゃんは呆れたようにため息を吐いて、肩をすくめた。
理解できないわ、と言いたそうに。
写真の中のおばあちゃんは、優しそうに笑っていた。
わたしと同じ青い色の目をした女の人。
優しそうな人だと思った。
そうだったらいいな。
英語を話せなくても、たくさん話を聞きたいって。
会えるのを楽しみにしていた。
それなのに。
「……ごちそうさま」
わたしは立ち上がって食器を台所に片付けた。
「蒼乃」
お母さんが一度、呼び止めるように言ったけれど、それ以上何も言わなかった。
わたしは自分の部屋に戻って、布団に潜り込んだ。
『出て行った猫はもう二度と帰ってこない』
わかっている。
もうすぐシオがいなくなって一年経つのだ。
シオがもう家に帰ってくることはないことくらい、わたしだって、わかっている。
だけど、シオのことを知らない人にーー
おばあちゃんには、そんな風に言われたくなかった。