たとえ9回生まれ変わっても
◯
ーー温かい。
ふわふわした少し長めの白い毛並み。
黒い鼻先はいつも濡れていて冷たい。
やわらかい肉球は、焼きたてのパンみたいな香ばしい匂いがした。
朝目が覚めると、となりで紫央が寝ていた。
すう、すう、と規則正しい寝息にらあわせて、鼻先がひくひく動いている。
その寝顔を見ていると、わたしはなんだか、ほっとした。
「紫央」
わたしは紫央に声をかけた。
「紫央、起きて」
「ううーん……」
紫央は目を擦りながら、もそもそと体を起こす。
「おはよう、蒼乃」
紫央がにっこりと笑って、わたしも「おはよう」と言った。
いつもなら、勝手に布団に入ってこないで、って怒るけれど、今日は怒らなかった。
毎日、夢を見て泣いていた。
夢の中で、シオはわたしに背を向けて去って行ってしまう。
近くにいるのに、手を伸ばしても決して届くことなない。
でも紫央が来てから、悲しい夢を見ることが少なくなった。
夢の中でシオは、ずっとわたしのそばにいてくれる。わたしはシオの温もりに触れてほっとする。
温かいから、だろうか。
紫央はいつでもひだまりの中にいるような感じがする。
お父さんが底抜けに明るい真夏の太陽みたいな人だとすれば、紫央は冬の太陽みたい。
寒くて暗い日陰を、ぽうっと柔らかく照らしてくれるような。