たとえ9回生まれ変わっても




ーー温かい。



ふわふわした少し長めの白い毛並み。


黒い鼻先はいつも濡れていて冷たい。


やわらかい肉球は、焼きたてのパンみたいな香ばしい匂いがした。



朝目が覚めると、となりで紫央が寝ていた。


すう、すう、と規則正しい寝息にらあわせて、鼻先がひくひく動いている。


その寝顔を見ていると、わたしはなんだか、ほっとした。


「紫央」


わたしは紫央に声をかけた。


「紫央、起きて」


「ううーん……」


紫央は目を擦りながら、もそもそと体を起こす。


「おはよう、蒼乃」


紫央がにっこりと笑って、わたしも「おはよう」と言った。


いつもなら、勝手に布団に入ってこないで、って怒るけれど、今日は怒らなかった。


毎日、夢を見て泣いていた。


夢の中で、シオはわたしに背を向けて去って行ってしまう。

近くにいるのに、手を伸ばしても決して届くことなない。


でも紫央が来てから、悲しい夢を見ることが少なくなった。


夢の中でシオは、ずっとわたしのそばにいてくれる。わたしはシオの温もりに触れてほっとする。


温かいから、だろうか。


紫央はいつでもひだまりの中にいるような感じがする。


お父さんが底抜けに明るい真夏の太陽みたいな人だとすれば、紫央は冬の太陽みたい。


寒くて暗い日陰を、ぽうっと柔らかく照らしてくれるような。



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