たとえ9回生まれ変わっても




英語の授業のあと、黒岩先生に呼び出された。


もちろん内容は、スピーチコンテストのことだ。


今週中に日本語の原稿を提出するようにと言われていた。


わたしが差し出した真っ白の原稿用紙を見て、黒岩先生は露骨に顔をしかめた。


「なんだこれは、今週中と言っただろう。代表なんだからしっかりしてくれないと困るよ」


代表なんだから、って。


その代表にわたしを選んだのは黒岩先生だ。


どう考えても向いていないのがわかってて、あえてわたしを指名したのだ。


嫌がらせがしたかったなら、充分じゃないですか。


わたしじゃなくて、もっと向いている人に言えばいいじゃないですか。


言いたいことはたくさんあるのに、何ひとつ言葉にならずに俯いてしまう。


おばあちゃんと英語で話せないみたいに、目を伏せた瞬間、そこには大きな壁が立ち塞がる。


「なんとか言ったらどうだ」


「……すみません」



わたしはそれだけ言って、逃げるように教室に戻った。





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