たとえ9回生まれ変わっても
◯
英語の授業のあと、黒岩先生に呼び出された。
もちろん内容は、スピーチコンテストのことだ。
今週中に日本語の原稿を提出するようにと言われていた。
わたしが差し出した真っ白の原稿用紙を見て、黒岩先生は露骨に顔をしかめた。
「なんだこれは、今週中と言っただろう。代表なんだからしっかりしてくれないと困るよ」
代表なんだから、って。
その代表にわたしを選んだのは黒岩先生だ。
どう考えても向いていないのがわかってて、あえてわたしを指名したのだ。
嫌がらせがしたかったなら、充分じゃないですか。
わたしじゃなくて、もっと向いている人に言えばいいじゃないですか。
言いたいことはたくさんあるのに、何ひとつ言葉にならずに俯いてしまう。
おばあちゃんと英語で話せないみたいに、目を伏せた瞬間、そこには大きな壁が立ち塞がる。
「なんとか言ったらどうだ」
「……すみません」
わたしはそれだけ言って、逃げるように教室に戻った。