たとえ9回生まれ変わっても
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家の近所はどこにでもあるような住宅街だけれど、個人経営の小さな洋食屋や本屋や酒屋など、昔ながらの店もちらほらとある。
うちのパン屋もそのうちのひとつだ。
お父さんやお母さんは近所付き合いを大事にしていて、買い物はできる限り馴染みの店でするようにしている。
小さなことだけれど、そういう心がけが、お店をやっていくには必要なんだろうなと思う。
その洋食屋に行くのは久しぶりだった。
最近はとくにお店が忙しくて、家族そろって外食に行くようなことはなかったから。
雪は止むことを知らないように静かに降り続け、夜の景色を白く染めていた。
クリーム色の外壁にレンガの屋根。
こぢんまりとした佇まいの一軒家風の建物だ。
木製の扉の横に電飾のついたツリーが飾られていて、窓から明るい光がぽうっと漏れている。
「ここ、前に来たことあるんだ」
紫央が言った。
「そうなの?」
わたしは少し意外に思いながら、扉を開けた。
「あらあ、蒼乃ちゃん、いらっしゃい」
おばさんがすぐに気づいて笑いかけてくれた。
「こんばんは」
わたしは頭を下げる。
「あら、今日は紫央くんも一緒なのね」
「うん。おばさんこんばんは」
紫央がにっこりと笑う。
すっかりご近所さんとも顔馴染みみたいだ。
壁際の席に案内されて、向かいあって座る。
席はほとんど満席で、待たずに入れたのは幸運だった。