たとえ9回生まれ変わっても
「紫央くん、いい飲みっぷりねえ」
おばさんが笑いながら料理を運んできた。
「料理もたくさん食べてね」
そう言って、紫央のグラスにたっぷり水を注いだ。
大きなチキンとサラダ、ローストビーフにコンソメスープ。
豪華なクリスマス仕様の料理だ。
色とりどりで、すごくおいしそう。
2人で「いただきます」と手を合わせて食べた。
「おいしいね」
「うん、すごくおいしい」
紫央の口癖が移ったみたいに、2人でおいしい、おいしいと連発しながら食べた。
「今日はありがとう。また来てね」
おばさんがレジの前でにこやかに言う。
「はい。また来ます」
「おばさん、ごちそうさまでした」
紫央は頭を下げて言った。
こういうところはすごくしっかりしているな、と紫央の礼儀正しさにはいつも感心してしまう。
暖かい店内から外に出て、わたしは寒さに体を震わせた。
雪が風に舞い、料理で温まった体が一瞬で凍りつきそうに空気が冷たい。
「帰ろう、蒼乃」
紫央が手を差し出した。
「うん」
わたしはうなずいて、その手に触れる。
いままでにも、手を繋いだことは何度かある。
でも、これまでにないほど、ものすごく緊張した。
指先から緊張が伝わってしまいそうだ。
帰り道は、お互いあまり喋らなかった。
だけど言葉がなくても、紫央を近くに感じていた。