たとえ9回生まれ変わっても
「何よ、もう。蒼乃ってば怖い顔して」
「あの男の子、誰。住み込みってどういうこと?」
「ああ、そのこと」
わかっているくせに、お母さんはとぼけた口調で言う。
「あの子、今日の朝、いきなりお店に来てね。ここで働かせてくださいって言うのよ。それで、お父さんが接客を教えてたところで、いきなりギックリ腰というわけ」
というわけ、ってそんな簡単にまとめられても……。
「今日の朝って、唐突すぎるよ。普通そういうのって、後日連絡しますとかじゃないの?」
「そうよねえ。なんか訳ありっぽいし、親御さんのことも聞いてみたんだけど、親はいないって言うのよ。それどころか、詳しいことは話せないって」
わたしは唖然とした。
「そんな怪しげな人、よく雇う気になったね。しかも住み込みってどういうこと?」
お母さんと話していると、自分がすごくまともな気がしてくる。
わたしが冷たいのだろうか……?
いやいやそんなことはないはず、たぶん。
「それがね、期間限定だからって。短い間だけでいいからここに置いてくださいって言うのよ。なんだか必死な感じがしてね」
それに、とお母さんは困ったように手を頬に当てて、息を吐いた。
「なんだか、ほっとけなかったのよ。うちに来たときのシオを思い出しちゃって」
わたしは思わず言葉を詰まらせた。
わたしだって思い出してしまう。
同じ名前。
同じ色の瞳。
ふわふわとした猫っ毛まで、シオとそっくりなのだから。