たとえ9回生まれ変わっても


「森川さん、大丈夫!?」

頭のうえから声がした。

顔をあげると、井上さんと吉田さんが覗き込んでいた。

「どうしたの? 体調悪い?」

井上さんが心配そうに言った。

大丈夫。
そう言おうとしたのに、声にならなかった。

「顔真っ青だよ。わたし、保健室連れてくよ」

と吉田さんがわたしの手をとる。

「えっ……」

「森川さん、立てる?」

「う、ん」

もうすぐ鐘が鳴ってしまう。
黒岩先生がきてしまう。

だけど、こんな状態で授業を受けるなんて無理だ。

よろよろと立ち上がって、吉田さんに付き添われて教室を出た。

前から黒岩先生が歩いてきて、足がすくむ。

「なんだ森川、サボりか?」

黒岩先生は不愉快そうに顔をしかめた。

「失礼しますっ」

吉田さんはぐい、とわたしの手を引いて、少し足を早めた。

「ほんと、最低」

廊下を曲がってから、吉田さんが吐き捨てるように言った。

「なんなのあいつ。森川さんになんの恨みがあんの? さすがに度が過ぎてるよ」

「吉田さん……」

「あいつ、気の強い生徒には絶対ああいうこと言わないからね。森川さんみたいな大人しい子狙って、ストレス発散してんだよ。まじで、ムカつくッ!」

ガン、と吉田さんが思いっきり壁を蹴ったから、わたしは思わずびくっと肩を震わせた。

吉田さん、おっとりしてると思ってたけど、意外と激しいんだな……。

「あっ、ごめんね。わたし、空手やってるからつい」

えへへ、とかわいく照れ笑いする吉田さん。なんだか見てはいけないものを見てしまった気がする。

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