たとえ9回生まれ変わっても

「かわいいーっ!」
「どこの学校?」
「誰か待ってるのー?」

紫央のアイドル並みのスマイルに、女子たちがはしゃいでいる。

紫央が何か言っているけれど、よく聞こえない。

女子たちの群れに紛れて、こっそり覗いてみる。

紫央は何かを配っているようだ。
何かビラのような。

あれ?
嫌な予感が……やっぱりうちだ!

シオが持っているチラシには、大きく『手作りパン工房もりかわ』と印刷されている。


よし。他人のふりをしよう。

「あっ、蒼乃!」

「…………」

他人のふり作戦は一瞬で失敗に終わった。

こっちに向かってにこにこと手を振っている紫央の手を掴み、全力で学校から離れた。

「まだ全然配れてないのにー」

と紫央は口を尖らせて不満そうだ。

「配らなくていいから! お父さんが店に出れなくて大変なときに、何お客さん増やそうとしてるの!」

「だってお母さんに頼まれたんだもん。今日お店だから、ビラ配りお願いって」

お母さん、お父さんの手術の日に何やってるの!?

「ていうかなんでうちの学校? どうやって来たの?」

「お母さんが病院から帰ってきて送ってもらったんだよ。帰りは蒼乃と帰ってきてって」

「……ああ、そう」

わたしはがくりとうなだれた。

あんなにたくさんの女子の前で注目を浴びてしまって、どうしろというのか。


明日、学校に行くのがちょっと怖い。
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