たとえ9回生まれ変わっても




家に帰ると、お母さんはお父さんの着替えを用意しているところだった。

それほど大きな手術ではなかったけれど、経過観察で3日間入院することになったのだと言う。

「おかえり、2人とも」

のんきな顔で振り向いたお母さんに、わたしはさっそく文句を言う。

「お母さん、何、ビラ配りって。そんなのほかの場所でやってよ。注目浴びて大変だったんだから」

「ぼくは楽しかったよ?」

紫央がキョトンとして言う。
わたしがなんで怒っているのか、まるでわかっていない様子だ。

「あら、注目浴びないとビラ配りの意味ないじゃない。駅前は規制が厳しいし、それに若いお客さんにも来てほしいし。紫央くんなら効果バツグンでしょ?」

そりゃもう、ミーハーな女子たちに群がられてましたけれども。

「そんなこと言ったって、お父さんがお店に出れなくて大変なときに、お客さん増やしてどうするの」

「大丈夫よお。紫央くん、とっても覚えがいいもの。接客未経験なんて思えないくらい。それに、夕方と土日は蒼乃もいるし」

サクッと一員に加えられたけれど、わたしは接客なんて無理だってば……。



< 41 / 157 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop