たとえ9回生まれ変わっても
◯
家に帰ると、お母さんはお父さんの着替えを用意しているところだった。
それほど大きな手術ではなかったけれど、経過観察で3日間入院することになったのだと言う。
「おかえり、2人とも」
のんきな顔で振り向いたお母さんに、わたしはさっそく文句を言う。
「お母さん、何、ビラ配りって。そんなのほかの場所でやってよ。注目浴びて大変だったんだから」
「ぼくは楽しかったよ?」
紫央がキョトンとして言う。
わたしがなんで怒っているのか、まるでわかっていない様子だ。
「あら、注目浴びないとビラ配りの意味ないじゃない。駅前は規制が厳しいし、それに若いお客さんにも来てほしいし。紫央くんなら効果バツグンでしょ?」
そりゃもう、ミーハーな女子たちに群がられてましたけれども。
「そんなこと言ったって、お父さんがお店に出れなくて大変なときに、お客さん増やしてどうするの」
「大丈夫よお。紫央くん、とっても覚えがいいもの。接客未経験なんて思えないくらい。それに、夕方と土日は蒼乃もいるし」
サクッと一員に加えられたけれど、わたしは接客なんて無理だってば……。