たとえ9回生まれ変わっても


「……なんでついてくるの」

ポットが置いてある台に手をついてわたしは言った。顔をあげられない。

見られたくなかった。
ひとりになりたかったのに。

「蒼乃、泣きそうな顔してたから」

紫央は言った。

「蒼乃に泣いてほしくないから」

「関係ないでしょ」

わたしは言った。

「なんで?」

何もわかっていない顔に苛立つ。
わかるはずがない。
知り合ったばかりの紫央に、わたしの気持ちなんて。

「紫央は家族じゃないから気にしないよね。でも、わたしは違う。あの家で生まれて、お父さんとお母さんの子どもとして育って、それなのに、家族として見てもらえない」

よその子ーーそう言われているような心地だった。

目の色が違うだけで。
目の色が違うから。

たったそれだけで、人の印象はがらりと変わる。

親と子の共通点すら、簡単に消してしまうくらいに。

「蒼乃……」

はっ、と気づいて、顔をあげた。

紫央の青い瞳がしずくのように震える。

わたしと同じ、傷ついた瞳だった。

「そうだね。ぼくには関係ない」

紫央は言った。
青い瞳は、明るい場所なのにどこか暗く見えた。

「ごめん。ぼく、先に戻るよ」

「あ……」

わたしは手を伸ばしかけたけれど、それ以上何も言えすわに、紫央の背中を見つめた。

紫央は、親がいないと言ったのだ。

もしかしたら、家族と呼べる人もいないのかもしれない。

それなのにわたしは自分のことばかりでいっぱいいっぱいで、ひどいことを言った。

ーーわたしのほうこそ、ごめん。

一言、そう言えればよかった。

だけど口から出た言葉は取り戻せない。
こぼれた水を掬いあげることは、できないのだ。
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