たとえ9回生まれ変わっても
デパートを出ると、どこかで配っているのだろう、風船を手に持っている子をちらほらと見かけた。
赤、青、黄色、緑。
色とりどりの風船。
晴れた日によく似合う光景だ。
「風船だ」
紫央がぽつりと言った。
「風船はわかるんだ」
わたしは冗談のつもりで笑った。
そりゃそうか。
なんにも知らない紫央だけれど、知っているものだってたくさんある。
料理の名前やテレビ番組。
とくに、パンの種類なんかは驚くほどよく知っていた。
「よく遊んだんだ。風船をパンッ、って割るのがおもしろくて」
「なんか遊び方間違ってる気がするけど……」
わたしは苦笑しながら言う。
わたしは風船が割れる音が苦手だった。
音が弾けるときの、心臓に響くような破裂音に、いちいちビクッとしてしまう。
だけど紫央にとってそれは、楽しい思い出だったらしい。
懐かしそうに思い出を語る紫央の横顔を、わたしはじっと見つめた。
ーーそれは、お母さんとの記憶?
紫央のお母さんは、どこに行ってしまったのだろう。
もう会えないのだろうか。
紫央はまだ待っているんじゃないだろうか。
いつか、誰かが迎えに来てくれるのを。