たとえ9回生まれ変わっても
「蒼乃っ」
紫央が通りの向こうを指差して振り向いた。
「あれ食べたい!」
クレープ屋らしい、ピンク色のワゴンが停まっていた。
「うん、食べよう」
わたしたちは道路を渡ってクレープのワゴンのほうへ歩いていった。
紫央の背中を眺めながら、思う。
知らないほうがいいのかもしれない。
だって、紫央は最初に言ったのだから。
『期間限定』だと。
いつかはうちを出て行くのだと。
深入りすると、これ以上近づいてしまうと、離れるときに辛くなる。
だから、何も知らないままの、いまの距離がいいのかもしれない。