たとえ9回生まれ変わっても




土曜日は、いつもより早く目が覚めた。

小さいころ、遠足の日にそわそわして早く起きてしまったときみたいだな、と苦笑しながら部屋を出ると、隣の部屋の扉が開いた。

「おはよう、蒼乃」

紫央は寝起きでもいつも晴れ晴れとしている。
昼間は眠そうだけれど、基本的に朝は早い。

「今日は早起きだね」

「うん、まあ……」

そわそわしているのを見透かされているみたいで、ちょっと恥ずかしくなった。

顔を洗って、いつも通りテーブルに用意してある朝ごはんを食べた。

お父さんは体を気遣いながらもほとんど前と同じように店に出るようになってきて、元通りの生活が戻ってきた。

前と違うのは、この家に紫央がいること。

期間限定らしいけれど、いつまでなのかは、紫央が言わないからはっきりとはわからない。

お父さんもお母さんも、店番をしてくれると助かるし、お客さんにも大人気だから、好きなだけうちにいていいと言っている。

部屋に戻って、さっそく買ったばかりの服に袖を通し、姿見でチェックをする。

柔らかい素材のベージュのカーディガンに白いTシャツ、茶色のキュロットは、控えめな色がいいというわたしの要望を聞いて店員さんが選んでくれたものだ。

季節の色なんて意識したこともないわたしは、これでいいのか心配になってくる。
いやいや、ファッションど素人のわたしの感覚よりプロの意見。

大丈夫大丈夫、と鏡を見つめながら暗示をかける。

「蒼乃かわいい!」

いつの間に入ってきたのか、後ろからいきな
り紫央が抱きついてきて、わたしはよろけて鏡ごと倒れそうになった。

「危ないでしょっ」

「だってかわいかったから」

なんの悪びれもなく言う紫央を見て、ドキリとした。

グレーのジャケットにVネックの黒いTシャツシャツ、カーキのパンツ。

買い物のときは店員さんに任せきりでよく見ていなかった。

いつもと雰囲気が全然違う。紫央って、ちゃんとした格好をすればこんなにも男の子っぽくなるんだ……。

「どう? 似合う?」

「似合ってる、と思う」

両手を広げる紫央に、わたしはどぎまぎして、うまく目を合わせられなかった。

せっかく早起きしたのに、準備に手間取っていたから結局ギリギリの時間になってしまった。

だけど出かけるのが遅くなったのは、準備に時間がかかったからだけじゃない。

ちゃんとうまくできるか、心配だったからだ。

失敗したりしないか、せっかく誘ってくれた井上さんたちをがっかりさせてしまわないか……。

「行こう、蒼乃」

そんなわたしの心を見透かすように、紫央はにっこりと笑いかけてくれる。

「うん」

大丈夫、1人じゃないから。
それがこんなにも心強いことだなんて、知らなかった。


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