たとえ9回生まれ変わっても




店が終わったあと、お母さんは駅までおばあちゃんを迎えに行った。

お母さんが仕込みをしたスープを引き受けて、時間をかけて煮込む。

お父さんはお客さんのところに配達に行っている。

「蒼乃のおばあちゃんって、どんな人なんだろう」

いつものように台所をうろつきながら、紫央が言った。

「さあ……わたしは覚えてないから」

「きっと優しい人だね。蒼乃のおばあちゃんだもん」

紫央は恥ずかしげもなくそんなことを言う。

「うん。そうだといいな」

自分のことを言われたわけじゃないのに、わたしは少し嬉しくなった。

お母さんが帰ってきた。
階段を上る音がして、わたしはつい緊張してしまう。

扉が開いて、わたしは目を向けた。

アルバムの写真と同じ、すらりとした細身の、青い目の色をした女の人が立っている。

2つの青い瞳が、みるみる大きくひらく。

おばあちゃんはわたしのほうへ歩み寄って、両手を広げた。

「アオノッ!!!」

聞き取れないほど早口の英語で、何かを言っている。

この人が、わたしのおばあちゃん。

……ちょっと力強すぎない!?

「あ、あの……」

激しい抱擁に、わたしの体がミシミシと不吉な音を立てている。

「お母さん! 蒼乃びっくりしてるから」

おばあちゃんはパッと手を離して、笑いながら謝った。

「会えて嬉しいわ、アオノ」

おばあちゃんは笑って言った。

これはちゃんと聞き取れた。
はじめましてではないし、お久しぶりですもちょっと他人行儀な気がする。

「わたしも、会えて嬉しいです」

わたしは答えた。

ーこの人が、わたしのおばあちゃん。

もう一度、確認するように、わたしは思った。
< 99 / 157 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop