たとえ9回生まれ変わっても
◯
店が終わったあと、お母さんは駅までおばあちゃんを迎えに行った。
お母さんが仕込みをしたスープを引き受けて、時間をかけて煮込む。
お父さんはお客さんのところに配達に行っている。
「蒼乃のおばあちゃんって、どんな人なんだろう」
いつものように台所をうろつきながら、紫央が言った。
「さあ……わたしは覚えてないから」
「きっと優しい人だね。蒼乃のおばあちゃんだもん」
紫央は恥ずかしげもなくそんなことを言う。
「うん。そうだといいな」
自分のことを言われたわけじゃないのに、わたしは少し嬉しくなった。
お母さんが帰ってきた。
階段を上る音がして、わたしはつい緊張してしまう。
扉が開いて、わたしは目を向けた。
アルバムの写真と同じ、すらりとした細身の、青い目の色をした女の人が立っている。
2つの青い瞳が、みるみる大きくひらく。
おばあちゃんはわたしのほうへ歩み寄って、両手を広げた。
「アオノッ!!!」
聞き取れないほど早口の英語で、何かを言っている。
この人が、わたしのおばあちゃん。
……ちょっと力強すぎない!?
「あ、あの……」
激しい抱擁に、わたしの体がミシミシと不吉な音を立てている。
「お母さん! 蒼乃びっくりしてるから」
おばあちゃんはパッと手を離して、笑いながら謝った。
「会えて嬉しいわ、アオノ」
おばあちゃんは笑って言った。
これはちゃんと聞き取れた。
はじめましてではないし、お久しぶりですもちょっと他人行儀な気がする。
「わたしも、会えて嬉しいです」
わたしは答えた。
ーこの人が、わたしのおばあちゃん。
もう一度、確認するように、わたしは思った。