LOVEHATE~御曹司社長と黒い子作り婚~
駅に向かって早歩きをしていたが、
その道中、自分の代金を払わずに喫茶店を出て来た事を思い出した。
後でLINEで奥村さんに謝ろう。
私は急いで、実家のマンションに戻り、母親に会うつもりだったけど。
いや、電話をしよう、と思い立った。
一刻も早く、確認したい。
道路の脇に寄り、スマホで母親に電話をする。
『はい。どうしたの?!』
私から電話なんて滅多にないから、
よっぽどの事かと思ったのだろう。
母親の声が少し焦っている。
この人には、私の本当の父親の事や、
綾知さんとの結婚を裏でいと引いてた事とか、言いたい事や訊きたい事はいっぱいあるけど。
とりあえず、それは今じゃなくていい。
「昔、私の通ってた保育園が流行り病で一時的に閉園してた事あったでしょ?」
『そんな事あったっけ?』
「あったの!
それで、預ける所がないから、私はお母さんに連れられて、NANTENスクエア主催のパーティーに連れて行かれて」
『あ、あった。
けど、千花は一人で控え室の方にずっと居たでしょ?』
「うん」
こう聞く感じ、綾知さんが私の様子を見に来てくれたのは、この人は知らないのか。
『で、それがどうしたの?』
「その時の流行り病って何?」
『えっと、確か。
おたふく風邪だったかな?
けど、千花は予防接種してたからか、かからなかったし。
もしかかってても、分からないくらいの軽症だったから』
おたふく風邪。
スマホを持つ手に、力が入る。
「お母さん。ありがとう。
また、連絡する」
そう言って、電話を切った。