LOVEHATE~御曹司社長と黒い子作り婚~
部屋を出て行った綾知さんはなかなか帰って来なくて、空腹だからか、その時間が余計に長く感じた。
飢えに耐えるよう、ベッドの上で身をよじっていると。
ガチャ、と扉の開く音がして、慌てて体を起こした。
「ごめん。ちょっと時間かかって」
綾知さんの手には、お皿があり。
その上に、表面が茶色のおにぎりが二つ。
「焼きおにぎり…」
思わず、ヨダレが垂れてしまいそうになる。
「味噌と醤油混ぜたのを塗って、焼いただけなんだけど。
けっこう、これがうまくて」
綾知さんは、部屋の真ん中にあるローテーブルにその皿を置いた。
私はベッドから飛び降り、そのローテーブルの前で腰を下ろした。
「食べていい?」
「どうぞ」
そう言われて、いただきます、と割り箸を割り、その焼きおにぎりを食べ始める。
それは、思わず箸を落としそうになる程、美味しい。
「そういえば、千花の箸ないな?
また俺、買って来る」
それに、それは、と思いこの人の顔を見てしまう。
多分、私の箸が用意されてないのも、お義母さんの意地悪なのだと思う。
私は、家族ではない、と。
だから、そうやって綾知さんが私の箸を買って来たら…。
それが、お義母さんの神経を逆撫でしてしまいそう。
「良い夫婦箸でも買って来る。
俺と千花の分」
夫婦箸。
私はこの人の妻で。
この人は、私をそうやって家族だと思ってくれるんだ。
「綾知さん、この焼きおにぎり凄く美味しい」
この人には色々と思う所はあるけど、こうやって優しい所は、確かにある。
「あ、良かった。
料理したのけっこう久し振りだったから自信なかったけど」
「綾知さん、料理するの?」
「昔、俺の持ってるマンションの部屋とかで、よく友達とか集めてパーティーしてて。
それで、よく何か作って振る舞ってた」
「そうなんだ」
この人は社交的だし、そうやって友達に手料理とか振る舞う姿も、なんとなく想像は付いた。
ただ、その行われていたパーティーが、なんとなく、ヤバそうなもののような気もしてしまうけど。
「とにかく、それ食べてさっさと寝よう。
もう襲わないから」
それに、頷き、最後の一口を口に放り込んだ。