ネコの涙
私は、何度も倒れながらも、あの神社までたどり着きました。

軒下には、もうミカンの絵がついた「家」は、ありませんでした。

それでも、私にとっては大切な場所であり、何だかホッとしたのです。

それが限界の様で、私はその場へ倒れ、もう起き上がれませんでした。

(ただいま・・・。帰ってきたよ。)

妹たちの顔が、思い浮かびました。

ケンジ、ミキ、ヒトミ、カズキ・・・。

(みんなありがとう。)

その時、ヒトミの声が聞こえた様な気がして、目を開けました。


『やっぱり、ここだった。』

もう会えないと思っていたヒトミが、目の前にいた。

『カズのばか!なんで、教えてくれなかったの。カズは、あの時のネコちゃんなのね。』

(教えたくても・・・。でも良かった、助かったんだね。良かった・・・)

意識が遠くなり、目を閉じようとした私を、ヒトミが抱き上げました。

『だめ!死んじゃだめ。私なんかのために、死んじゃだめ!!お願い、目を開けて!』

私は最後の力を振り絞って、目を開けました。

(ヒトミ・・・。もう君は、一人じゃないよ。これからも頑張って、生きて。)

『カズ・・・お願い、死なないで・・・』

もう目は開けていられませんでした。

『瞳ちゃん。もう…逝かせてあげよう。これからは、カズに負けないくらい、立派に、一緒に生きて行こう。』

カズキの言葉に、ヒトミがうなづいたのが分かりました。

『ネコちゃん。私を助けてくれてありがとう。君は、私をほんとうに救ってくれたんだよ。君に逢えて良かった。大好きだよ・・・。』

ヒトミの涙が、温かく感じられました。

『瞳ちゃん。このネコは、僕たちの天使だね。』

『うん・・・。そうね。ほんとに。』

ヒトミの唇が、鼻に触れたのを感じました。

『ゆっくりおやすみ。さようなら・・・。私の天使ちゃん。』

こうして、三つ目の名前は、「テンシ」になったのです。


妹達といた大切な場所で、愛した人の腕の中で、最期を迎えられた私は、とても幸せなネコです。

(ありがとう、みんな。ありがとう、ヒトミ・・・)

私のヒゲを、最後の涙が落ちていきました。


『あっ、瞳ちゃん!!カズが…泣いてる。』


『そうよ。ネコだってね、私たちと同じ様に、涙くらい流すんだから・・・。そうよね、カズ。』


(おかえりお兄ちゃん。)
(レイ。)
(レイちゃん。)

リコとケンジ、そしてミキの声が聞こえてきました…。


~ネコの涙~ 完
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