月の光
今日はフィギュアスケートの競技日。
その日も僕達は、音楽番組の収録があった。僕は本番以外はずっと携帯を握りしめて彼女の出番を中継で見ようとしていた。

「あっ来た」

携帯にイヤホンをさして楽屋の騒音を遮断する。
彼女の演技する曲はドビュッシーの『月の光』だった。

氷の上を滑りながらくるくると表情を変える彼女は、本当にこの世の人なのかと思うくらい綺麗だ。
スポットライトが月の淡い光のように彼女を照らしてるように錯覚してしまうほど、彼女の表現力は素晴らしかった。

彼女の演技が終わった瞬間、観客が席を立ち彼女に拍手する様子が映し出された。
僕も会場に居たらきっと跳びながら拍手をしていたんだろうなと想像した。
さすがに楽屋の中でイヤホンをして急に拍手し始めるなんて変な人になりたくなかったからぐっと我慢して、心の中で彼女に拍手をした。

彼女の得点発表。
「城野雪、ただいまの点数164.92」


「日本の城野雪、世界記録を大きく更新!このまま金メダル獲得か!?」
という字幕が出てきた。

「…ク」

「…ングク」

「ジョングク!」
ジミニヒョンが僕を呼んでいた。

「帰りの車下着いたって!行くよ!」

「はいっ」

忘れてた。ここ家じゃなかった。もう少し見たい気持ちがあったけど、ヒョン達も居るからと渋々腰を上げた。
< 8 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop