生贄は囚われの愛を乞う~棄てられ令嬢と狼将軍~

 夜中、扉を叩く音に気が付いてレナは目を覚ました。

 昔もこんなことがあったと思い出し、胸騒ぎを感じながら扉の方へと向かう。



「お嬢様、起きていらっしゃいますか」



 扉の向こうから聞こえたのは聞きなれたメイドの声だ。

 安堵しながら、何か火急の要件があるのかと、扉をあける。

 どうしたのと呼びかければ、メイドと共にもう一人、ローブを目深にかぶった人物が部屋に入り込んできた。



「レナ……!」

「お義兄さまっ……!?」



 うつろな瞳でレナを見つめるのは、あの日に別れたきりの義兄であった。

 貴族らしい身だしなみを失い、こけた頬に伸びたひげ、薄汚れた姿は記憶にある義兄とはあまりにかけ離れていて、レナは信じられない思いで彼を見つめた。



「お前が捕まったと聞いて……ようやく助けに来れた。俺と逃げよう!」



 まるであの日の再現だった。

 乱暴に腕を掴まれレナは、いやいやと首を振って抵抗する。



「わ、私をあの場所に残したのは皆さまです。どこか遠くに逃げてください!」



 早く去ってほしかった。もし義兄がつかまり、領主たちの居場所がわかればローガンがレナを閉じ込めておく理由がなくなってしまう。



「何故だ! このメイドに聞いたぞ。狼将軍に酷い事をされているのだろう? 俺が助けてやる! さあ!」



 レナは咄嗟にメイドに顔を向けた。彼女の表情はレナを心底案じているようなもので、良心からの行動である事が伝わってくる。

 何故そんな事をしたのと攻め立てる事も出来ず、レナは必死に義兄に抵抗した。



「いけません。私まで逃げれば、大変なことになります。ローガンさまは、決してひどいお方ではありません」



 だからどうか、私を諦めてと願いながらレナは必死に声を上げた。

 だが、レナがローガンの名前を出した途端に義兄の顔色が変わる。

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