生贄は囚われの愛を乞う~棄てられ令嬢と狼将軍~
「ローガンさまだと? お前、まさか!!」
誰よりもレナに執着していた義兄は、彼女の言葉ですべてを察したのだろう。
レナ細い腕を掴む腕に力込め、その身体を引きずるようにして歩き出した。
「いやぁ! 痛い! 痛いわ!!」
「お嬢様!」
流石に危険だと感じたのか、メイドが慌てて二人の間に割ってはいるが、義兄は乱暴にその体を蹴り飛ばす。
床に転がったメイドにレナは叫ぶが義兄は構うそぶりすら見せない。
「来い! お前は俺のものだ!!!」
廊下に引きずり出されようとした、その時だった。
「レナから手を離せ!!」
「ぎゃああ!!」
みにくい悲鳴を上げた義兄の身体が床に叩きつけられた。
急に解放されバランスを崩したレナの身体は、身に覚えのある暖かな腕の中に抱きとめられる。
「無事か?!」
「ローガンさま……!!」
焦りをおびたローガンの瞳がレナを見つめていた。
レナはひしとその胸にすがりつく。会いたくて恋しかった人。助け出してくれた喜びに全身が打ち震えている。
「貴様……!! 貴様が俺のレナを!!」
「私はあなたの物ではないわ!! ローガンさま、あれが私の義兄です。きっと義父たちの居場所を知っているはずです!」
レナはまっすぐに義兄を指さす。
自分の居場所を奪う行為だと知りながらも、ローガンに本懐を遂げて欲しかったのだ。
それで捨てられたのなら本望だと思えるほどに、レナはローガンを愛していることに気が付いてしまった。
「レナァァ!!!」
獣のように吠えた義兄が隠し持っていたナイフを握りしめ、まっすぐにレナたちの方に向かってくる。
だが、相手は将軍ローガン。ろくに鍛えてもいない義兄の攻撃など、無意味だった。
ローガンはレナを抱き抱えたまま攻撃を避け、長い脚で義兄の身体を思い切り蹴り飛ばした。
潰れた果実のような嫌な音を立てて、義兄の身体が壁に打ち付けられる。
しかしまだ諦めていないのか、レナの名前をうわごとのように繰り返しながら、ナイフを探して腕を彷徨わせていた。
義兄のナイフは、レナたちの足元近くに転がっていて、彼の手が届くところにはない。
「これが欲しいのならば返してやろう」
ローガンはそのナイフを拾い上げると義兄の方へ近づいて行く。
何をするつもりかとレナが息を飲んでいると、ローガンは躊躇う様子もなくそのナイフを義兄の背中に突き立てた。
耳障りな断末魔を上げ、義兄は全身を痙攣させるとすぐに動かなくなってしまう。
「……レナ」
人ひとり手にかけたと言うのに、平然な表情をしたローガンがレナに振り返った。
「これでまた領主の居場所を掴む手掛かりが消えた。まだお前を解放するわけにはいかない」
大きな手がレナの方に伸ばされる。今まさにレナの義兄の命を奪った恐ろしい手。
だがレナは躊躇いなくローガンの腕の中に飛び込んだ。
「どうか……どうか私をずっと囚らえておいてください」
自分を強く抱きしめる彼の腕を感じながら、レナはうっとりと目を閉じた。