生贄は囚われの愛を乞う~棄てられ令嬢と狼将軍~

 いつの間にか与えられたレナの部屋には大きな寝台一つしかない。

 昼夜を問わず、気が向いた時に現れるローガンに抱かれるためだけの場所。



 食事を届けてくる高齢のメイドが、起き上がることもできないレナを憐れに思ったのか、かいがいしく世話を焼いてくれた。

 だが、会話をしてはいけないと言いつけられているらしく、レナがどんなに話しかけてもメイドは悲しげに首を振るばかり。



 それでもレナは不思議と辛いとは思わなかった。

 相手が変っただけで、義兄と結婚していても同じような生活だったろうし、王太子とて男だ。

 結局は抱かれるためにレナは育てられた。



 ローガンは最初の行為こそ手酷いものだったが、最近は言葉を除けばレナを痛めつけるような事はしない。

 たくましく傷だらけの身体を最初は恐ろしいと思ったが、それだけこれまでたくさんの戦場を駆け抜けてきた証拠だと思えば、何故か愛おしくさえ思えた。



 むしろレナを抱きながら暴言を吐くローガンの表情の方が、レナの心を苛んだ。

 酷い事を言っているのはローガン筈なのに、何故か彼の方は苦しそうで泣きそうに瞳を歪めているのだ。

 本当は優しい人なのではないかと思うような時さえあった。

 レナの名を呼びながら唇を奪い身体を貫く瞬間の彼は、いつも何かに祈るような顔をしていた。



(ローガンさまの瞳は、彼に良く似ているんだわ)



 レナはローガンの瞳が幼い記憶に残っている『彼』と良く似ている事にようやく気が付いた。

 孤児院で一番仲のよかった二つ年上の少年。あの頃、レナより小さくてやせっぽちで。でも正義感だけは誰よりも強かった。

 養女になると決めた時、別れるのがつらくて挨拶もできなかった相手。幼い初恋だった。

 彼の髪色はローガンとは違い真っ黒だったので、似ているのは瞳だけだ。



(初恋の人に瞳が似ているから抱かれても平気だなんて、現金な女ね)



 ベッドの上でぼんやりとまどろみながら、レナは自嘲気味に笑った。

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