高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―
「ぼんやりするなとは思ったんですけど、まさか熱があるなんて思わなくて。ここ一週間くらい、ずっと悩んだり、このままじゃダメだって自己嫌悪に陥ったりして睡眠不足だったから、疲れが出てるだけかなって思って……迷惑かけてすみません」
へらっと笑いながら、水出さんから自分のバッグを受け取る。
「嫌われてるのはわかっているんですけど、気にかけてくれて嬉しいです」
携帯で近くの内科を調べていると、「そっけない態度をとっていることは謝るわ」と声がかかる。
顔を上げると、水出さんが真面目な顔で私を見ていた。
「嫌な態度よね。ごめんね。高坂さんはなにも悪くないの」
水出さんの悲痛に歪んだ顔を見るのは初めてで、熱のせいでふにゃふにゃになっている思考回路が刺激される。
なけなしの気力を振り絞って頭を働かせた。
「あの、私の勘違いだったらすみません。でも、いい加減もやもやしているものを私もハッキリさせたいので、失礼を承知で聞きます。水出さんって、後藤のことが好きなんですか?」
ぼやける視界の先で、水出さんはわずかに顔をしかめてからハッキリとうなずいた。
「そう。でも、彼とどうこうなりたいってわけでもないの。年齢も離れてるし。だから、高坂さんが後藤くんと付き合っているならそれでいいんだけど、ただの同期だっていうから……納得ができなくて」
「……納得?」