石像は凍える乙女を離さない~石にされた英雄は不遇な令嬢に愛を囁く~
「トレシー様が居た事で、本当に救われました。ありがとうございます」
最初と同じようにルルティアナは石像の頬を優しく撫でる。
その形の良い唇に触れたくなって指を滑らした。
「……私は、あなたさえいてくださればよかったのに。きっともうここには来れません」
嫁ぐと言うことは、夫となる男に妻として身体を差し出さなければならない。未だ誰とも合わせた事もない唇も、顔も知らぬ相手に奪われてしまう。
それならば、と引き寄せられるようにルルティアナは石像の身体に抱き着くように身を寄せた。
これまでその体を磨くために触れた事はあっても、意図を持って触った事などなかった。
我ながらばかげていると思う。無機物の石像にこんなことをするなど。
「トレシー様、はしたない私をお許しください」
石像の唇にルルティアナは己の唇を重ねる。
雪で冷えた石はさぞかし冷たいだろうと思っていたのに、何故かその感触は心地よかった。
最初はつるりと冷えていた石の唇が、ルルティアナの唇によって暖められたのかじんわりと熱を持っていく気がした。
ゆっくりと唇を離しながら、ルルティアナは自らの行いの憐れさに乾いた笑いを零した。
ほんの数秒で終わった初めての口付け。相手は物言わぬ石像。
だが、満足だった。たとえ石像でも憧れた人が相手だ。きっとこの先の人生もこの思い出が支えになってくれるはず。
「さようなら」
これで終わりだと、石像から離れようとした。
「そんな事は許されないよ、愛しいルル」