石像は凍える乙女を離さない~石にされた英雄は不遇な令嬢に愛を囁く~
ルルティアナを腕に抱く、石像だった男もといバルト・トレシーは、自分がかつて倒した黒竜の呪いで石像にされていたのだと語った。
それはとても複雑な呪いで、バルトの魔法をもってしても解くことはできないものだったそうだ。
無理に解呪したり動こうとすれば、身体が砕けて死に至るやっかいな呪い。
バルトにできたことは、黒竜と共に落ちた険しい谷から、時間をかけ人里近い所に戻ってくることだけ。
石像となり年を取ることも時間を感じる事もなかったが、弱い魔法は使え、意識や思考はそのままだったという。
「気が遠くなるような年月、まともに身動きを取ることもできず、考え続けるだけしかできなかった。それが、どれほど苦痛だったことか」
「それは、お気の毒に……?」
たくましい胸板に顔を押し付ける形で抱きしめられたままのルルティアナは、その話を聞きながら困惑しきった声を上げた。
英雄を名乗るこの男が本物なのかわからなかったが、目の前で石像だったものが動き出して人間になったのは疑いようもない事実。
しかもその外見は、ルルティアナが知るバルト・トレシーそのもの。
ずっと外で石像をしていた筈なのに、腕の中は信じられないほど温かく優しい匂いがした。
人から抱きしめられるなど、母親が死んで以来、はじめてだ。