私の愛は···幻

🎹天音Side


天音は、結婚記念日だが
マンションで待つ事に
不安があり
先生からちょうど
シャングリ・ラホテルでの演奏を
依頼されたので それを了承した。

依頼を受けて良かったのか·····
受けなければ良かったのか····

「一曲だけだぞ。」
と、言う温斗に
「うふふっ、わかった。」
と、言って更衣室で着替えて
エレベーターでラウンジへ。

いつもは同じ階で着替えるのだが
今日は、お客様が多くて
下の階でと依頼された。

エレベーターが開くと
抱きあっているカップルが···

健人さんと花奈さん······だった。

健人さんは、大きく目を開き
私を見たが······
花奈さんは、ニヤリと笑っていた。
「···あま····ね···」
と、呼ばれて腕を取られるが
触ってほしくなかった。
彼女を、花奈さんを抱いた手で

私は、首を振りながら
健人さんの手を私の腕から離して
そのままラウンジへ向かった。

健人さんが追って来る事は なかった。

自分で手を離した癖に落胆している
自分が情けなかった。

店長は、私の顔を見て
一瞬目を見張ったが
優しい笑みを浮かべて
「無理を言ってすみません。」
と、頭を下げるから
「頑張ります。」
と、伝えてピアノの横に立ち
お客様に一礼をした。

演奏が終わり更衣室に入り
店長にこのままこちらに
泊まらせて欲しいとお願いすると
直ぐに了承してもらえた。

温斗に
《 無事に終りました。
     もう、寝るね。 》
と、ラインをすると
《何か食べたか?》と。
《少し》
どうせ、嘘だとバレているだろうが
このまま電源を落とした。
きっと、温斗には伝わっている。

今日は、結婚記念日だったのに
それさえも忘れて花奈さんと
いる健人さん。

もう、健人さんには、
私は見えてない。
いや、始めから健人さんには
私は見えてなかった·······
愛しあっていると
思っていたのは·····私····だけ···

どのくらいの日々
泣いただろうか······
この数ヶ月の間に·····
身体も···心も····ボロボロ······
なぜ、健人さんは、
私と結婚したのだろうか·····

花奈さんと一緒にいたければ
花奈さんと結婚すれば良かったのに······

なぜ·····

天音は、泣き疲れて
そのまま眠ってしまった。
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