離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
付き添いはいらないという瑛理を誠さんに託して、私は病室を出た。
無力感を覚えていた。こんなときに瑛理に頼ってもらえないなんて。こんなときに遠ざけられてしまうなんて。

とぼとぼとロビーを歩いていると、声をかけられた。

「柊子ちゃん?」

顔をあげれば、そこには河東くんの姿がある。驚いた。どうしてこの病院にいるのだろう。

「偶然だね。誰かのお見舞い?」
「あ、ええ。そう。瑛理が怪我をしてしまって」
「え? そうなんだ。怪我の具合は?」

尋ねてくる河東くんは、心底心配しているように見える。

「足首を剥離骨折してるけど、明日には退院できるの」

私は河東くんを見上げ、明るい口調で言った。作り笑いみたいになっていないだろうか。

「そうか。骨折はつらいだろうけど、退院が明日ならちょっと安心だね。柊子ちゃんは、日々の生活のサポートが大変になりそうだけど無理しちゃダメだよ」
「うん、頑張らないと。河東くんはどうして病院に?」
「うちの祖母がここに入院していてね。祖母も来週には退院なんだけど、今日は着替えを届けにきたんだ」
「河東くんってご実家の用事も率先してやるのね。すごいなあ」
「俺、ばあちゃん子だから」

にこっと笑う河東くんに、暗くなっていた気持ちがわずかに癒されたのは事実だ。
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