離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
「次は同窓会だなんて言ったけど、会っちゃったね」
「うん。こういう偶然ならいいじゃない」
「柊子ちゃん、志筑の怪我でたくさん心配したんでしょう。顔色が悪いよ。俺もこれから車で帰りなんだ。下心はないから送らせてよ」

おそらく本当にただ心配してくれているだけなのだろうけれど、一線を引いておかなければならない。私は首を左右に振った。

「ありがとう。でも、家も近いし大丈夫」
「そうか。わかった。……もし、何か困ったことがあったら言ってくれよ」

距離を取ることにしたというのに、彼はまだこんなに優しい。私は申し訳ないようなありがたいような気持ちで微笑んだ。

「河東くん、ありがとう。それじゃあね」
「ああ」

河東くんと別れ、私は足早に家路を急いだ。少しだけ寄りかかりたくなってしまった自分が恥ずかしい。
瑛理の気持ちがわからなくて、心もとなくて切なかった。河東くんに相談したくなってしまった。
そんな利用の仕方をしたら、彼に失礼だというのに。



その日のうちに誠さんから今回の件について電話で説明があった。
私に謝ってきた部下の男性が取引先とトラブルになっていることを報告しなかったのが発端だそうだ。謝罪に赴いた先で、瞬間的にその部下と先方がもみ合うような状況になったらしく、突き飛ばされた彼をかばって瑛理が下敷きになったという。

それだけ聞けば、瑛理は悪くない。妻の目線から見れば、完全なるとばっちりだ。
しかし、部下の起こした事件に対し彼が責任を感じるのは当然だろう。
瑛理が沈痛な表情をしていたのはきっとこの点だ。自身の管理責任について反省し悩んでいるに違いない。だけど、あまり思いつめないでほしい。
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