離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
私にできることはなんだろう。まずは瑛理が帰ってきたら、なるべく自然に接しよう。
心に決めて、その晩はひとり眠りについた。

翌日、瑛理は誠さんに送ってもらい帰ってきた。私が仕事中に戻ったようで、スマホに帰宅のメッセージが入っていた。私はほっとし、束の間仕事に集中することができた。早く顔が見たい。今日も急いで帰ろう。
夕飯の買い物荷物を手に急いで帰宅すると、瑛理はダイニングテーブルで自宅のノートPCを使って仕事していた。在宅勤務状態である。

「瑛理、お帰り」
「ああ」

瑛理はこちらを見ずに短く答える。部屋の隅に松葉杖があった。

「それ、家の中ではほとんど使わないから、邪魔なら玄関に置いておいていいよ」

液晶から顔をあげずに言う瑛理はどこかよそよそしく見えた。

「平気なの?」
「ギブスで固めてあるから平気だ」

おそらくはそんなことはないと思う。私が医師から聞いたのは、一か月近くは固定が必須だということ。動かすと治りづらいから、無理は禁物だという。靭帯が伸びたり一部断裂していることもあり、完全に機能を回復するまでには三ヵ月ほどかかるかもしれないという。

「外を歩くときは、絶対に松葉杖だよ。家の中のことはなるべく私がやるから」
「世話を焼かなくていいよ。無理はしないし」

色々とショックを受けているだろう瑛理に、これ以上口うるさくは言いたくなかった。私が気をつけて負担を減らせばいいのだ。
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