暴走環状線
「どいてください❗️」

紗夜がヴェロニカと昴の間に割って入る。

「この機械は、一度はあの電車に繋がったのよね?」

「一瞬だけどね💦」

「何とかなるかも知れない…」

右手の手袋を外す紗夜。
弾丸で撃ち抜いた傷跡が痛々しい。

その手を機械に添えて目を閉じる。

(お願い!梨香さんに届いて❗️)

梨香の顔を強く念じる。
右の掌に激痛が走る。
それでも念じる紗夜。


「山手線の全車両が減速しています!」
昴が叫ぶ。

「次の駅で停まるのね…」

「停まって大丈夫なのか?」

「富士本さん、うちの開発部から連絡あって、解除機能があるらしいの。だから彼らの持っているリモコンなら止めれるはずよ」



〜山手線内〜

10年前に子供を亡くした親達が、渡されたスイッチを全てOFFに切り替えた。


土屋もスイッチをOFFに切り替えて行く。
ただ…このリモコンだけ、11両目のスイッチが無かった。

(梨香さん…ありがとう)

品川駅の古びた、あの信号機が見えた。
グリーンの光が妙に眩しく感じる。

すると突然、義光が動いた。

「どいてくれ、娘が、娘が❗️」

だが、乗客達は、ガンとして動かなかった。

「あんたは、死ぬまで生きるんだ❗️」

1人の若いサラリーマンが、大声で告げた。



〜最後尾の車両〜

一歩足を踏み入れた時。

「えっ?」

腕を誰かが掴んだ。
驚いて見る梨香。

姿はない。
だが、小さな手が、その手首を掴んでいた。

(なに?)

(梨香さん、私は紗夜)

(さ…や?)
頭の中に響く声に驚く。

(死んではいけない、強く生きてください)

(紗夜さん、ありがとう)

(お願い、生きてください)

(優しい方ですね、紗夜さんは)

(でも、もうおしまいです)

(《《友達》》を、10年も待たせちゃったから)

(さよなら…)



品川駅に電車が停まった。


「ドドーン💥ドーン💥❗️」


最後尾の車両が爆発した。


「バシッ❗️」
「キャ❗️」
機械が弾け、紗夜が軽く吹き飛ぶ。

「おっと!」

紗夜の体を豊川が受け止めた。

「大丈夫か、紗夜?」

「ぅうわぁあぁーっ❗️」
その大きな胸にすがって、思い切り泣いた。


「終わったな」

「そうね」

「IQ 270が…」

10年の時を経て明らかになった真実。
それは、暴走した都心環状 山手線の中で、終幕を迎えたのであった。

爆弾は最後尾車両のみであり、爆発したのは、菅原梨香の乗った1両だけであった。

菅原、時任、相沢は逮捕され、余罪を含め暫くは調査が続くが、容疑は全て認めていた。

加藤恭子は自殺誘導罪に問われたが、史実を踏まえ情状酌量となり、時任の弁護に加わった。

戸澤公紀の正当防衛は認められ、水口殺害も控訴する者がなく、1年間の定職処分で済んだ。

土屋香織は、盗聴の電波法違反に問われるまでもなく、逆に事件解決への貢献が表彰された。

また、戸澤と土屋の2人は、戸澤の復職を待って、再婚を決めていたのである。



〜暴走環状線〜  終幕。
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