暴走環状線
次の池袋駅で始点に戻る。
その最後尾の車両。

「時任さん、行かないんですか?」

「今更戻るところは無い」

「でも、あなたには奥様と子供がいます。あなたの刑なら、比較的早く出られるでしょう」

「はは、こうなる気はしていた。だから、とっくに別れたよ。犯罪者の家族がどうなるかは、あの娘がさっき教えてくれた通りだからな」

「そうでしたか」

「君こそ生きなさい。情状酌量の余地ありだ」

「いえ、前日故郷に後継者とお店を出せました。もうやり残したことはございません」

「まだ君は若い。その腕はまだまだ世界に和食を知らしめる義務がある。何もない私とは違う」

「私をここまでにしてくれたのは、あなたです。あなたがいなければ、名古屋で潰れていたことでしょう」

向かい合って座る2人。
もう心は決まっていた。

「あの…そちらへ行ってもよろしいですか?」

「ああ、もちろんだとも」

時任の横に座り、体を預ける鈴蘭恭子。
以前の優しい腕が、その体を抱き寄せていた。
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