嘘よりも真実よりも
 客間のソファーで、こじんまりと座るさゆみさんの前へ、コーヒーカップを差し出す。そして、小さく頭を下げる彼女の前へ、腰を下ろした。

「彩香さんのことは大丈夫なんです。わざわざ来てくださって、こちらこそ申し訳ありません」

 私も頭を下げるが、さゆみさんは苦しげな表情で、ひざの上で重ねた指をかたく絡み合わせた。

「最初に、お手紙を差し上げたのは私なんです」
「え……、あの、白紙の?」

 唐突な告白に驚く私に、さゆみさんは気まずそうな表情を見せる。

「直己さんに娘がいると知って、確かめたくなってしまったんです。本当に、富山さんのお宅に、直己さんの娘がいるのか」
「それで、お手紙を?」
「手紙が届いたら、みちるさんがこの家にいらっしゃる証明になると思いました。手紙が戻ってくるといいって、少しは期待していたんですけど、ちゃんと届いてしまったみたい」

 さゆみさんは肩をすぼめて、ひとりごとのように続ける。

「彩香は私が手紙を送ったこと、知ってました。だから、みちるさんを呼び出す手紙を書いたんだと思います。私が余計なことをしたばっかりに、本当にご迷惑をおかけしてしまって……」

 ふたたび、深く頭を下げるさゆみさんにかける言葉が見つからず、しばらく沈黙していると、彼女はおそるおそる私を見上げた。

「もう一つ、……お尋ねしても?」

 ためらいがちに、そう言う。

「はい……」

 私もひかえめにうなずくと、さゆみさんはため息に似た小さな息を漏らした。

「直己さんが……、直己さんが人殺しって、本当ですか……?」

 ハッと息を飲んだら、彼女の眉が悲しげに下がる。
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