嘘よりも真実よりも
清貴の車で、都内にあるレストランへ向かった。そこで、四乃森直己は待っているという。
月曜日の今日、夜の街は静かだった。
俺の心も落ち着いている。いや、妙に落ち着いてるから、周囲の様子が冷静に見えるのか。
「驚かれたでしょう? って感じでもないか」
清貴はくすりと笑う。
「勝手に誤解したのは、俺が先ですから」
「今日は声かけてよかったな。あなたはやっぱり、いい人そうだ」
「どうして俺に誘いを?」
そう尋ねると、彼は思案げに眉を寄せる。
「俺はさ、みちるに変わってほしかったんだ。自分の幸せより先に、富山に義理立てするその性格をさ。両親だって、内心は俺か兄さんと結婚しても構わないって思ってただろうしね」
「……そのおつもりが?」
夢物語を聞かされた後、急に現実に引き戻されたみたいだった。みちるはふたりの兄と暮らしている。そのふたりともが、血のつながらない男なのだ。
「いや、俺はみちるを妹としてしか見たことないよ」
おかしそうに、清貴は肩を揺らして笑い、ブレーキをかけた。交差点の信号が、黄色から赤に変わる。
「でもどうだろうな。兄さんは、違ったかもしれないな。手を出さない自制心には感服してるよ」
富山仁志はみちるが好きなんだろうか。一人の女性として。
眉をぴくりと動かす俺を、清貴は横目で見る。
「兄さんが望んだら、みちるは拒めないだろうって思ってたからさ、あなたと付き合い出したのは、ちょっと意外だったな。みちるも、たまにはわがままになるんだって、驚いたよ」
「俺と出会って、みちるは変わりましたか」
「少しはね。でもこのままじゃ、みちるは兄さんと結婚するだろうな。今夜、間違いが起きるかもしれない」
眉をひそめると、清貴は俺と目を合わせ、声を立てて笑う。
「冗談ですよ、冗談」
「冗談には聞こえませんよ」
「珍しく兄さんがはやく帰ってきたからさ、それもあるのかなって思っただけですよ」
「全然、冗談じゃない話ですね」
不機嫌になる俺をなだめるように、まあまあ、と笑った清貴はアクセルを踏む。
「あー、あれですよ。約束のホテル」
青信号の続く大通りの先に、超高層ホテルがある。そこで、四乃森直己は待っているみたいだ。