嘘よりも真実よりも
「ん、ああ、大丈夫ですよ。彼は恐ろしく記憶力が高いんです。ボイスレコーダーは必要ありません」

 にやつく清貴を見て、直己は眉をぴくりとあげた。清貴の不遜な態度は、ところかまわず出るらしい。

「事故の話だけは記録しないでほしい」

 そう前置きをして、直己はテーブルの上で指をからめる。

「あれは、俺たちが20歳になる少し前の話だよ。あの日は万里と彼女の両親、4人で食事をする予定だった」
「万里さんのご両親は気さくな方だったと聞いてます」

 直己は肯定するように、うなずく。

「俺たちが交際してることも反対しないで……たまに食事に連れていってくれたよ。あの日は、俺が車でご両親を迎えに行く予定だった。万里は先にレストランで待ってるからって」
「向かう途中の事故だったんですね」
「ああ、……そうだよ。家で待ってくれてればよかったのにね。コンビニまで行くからいいって、ご両親はふたりで歩いてた。万里の母親は俺の車に気づいて手を振ったな……」

 遠い目をしてそう語った直己は、前髪をくしゃりとつかみ、苦しそうにうつむいた。

「どうしてあんなことになったんだろう……。万里の母親の笑顔が、驚きと恐怖に染まっていった。もう、ずっとだ。ずっと、頭から離れない……」
「アクセルとブレーキを踏み間違えたと聞きましたが」

 ハッと直己は顔をあげ、身を乗り出す。

「そうだ。俺がふたりを轢いた。万里の両親を殺したのは、俺だ」

 清貴はジッと直己を見返して、唇をかんだ。

「そうやって、ずっと嘘をついてきたんですね。みちるは信じていますよ、あなたの嘘を」
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