嘘よりも真実よりも
「……そうです。でも、悲劇のヒロイン扱いだった万里は、連日マスコミに追いかけられて、フルート奏者になりたいという夢も叶えられなくなった。俺たちは一緒にいればいるほどつらかったのに、失ったら生きていけないぐらい互いを頼りにしていました」
「あの事故は、とても不幸な事故でした」

 力なくうなだれる直己が、ゆっくりと顔を上げる。コーヒーをひとくち飲んで、心を落ち着かせていく。

 俺は直己を見守る清貴の横顔を眺め、そして、直己に視線を移す。

「どんな事故だったか、お聞きしても?」

 そう尋ねると、直己はほんの少し唇を歪ませた。

「清貴くん……、話してくれるか」
「彼は知る権利があると思って連れてきました」
「知る権利ですか。……そうですか」
「俺には昔の新聞から得た情報しかありません。間違っていたら訂正してください」

 直己にそう言った後、清貴は俺の方へ顔を向ける。

「なりゆきは、今、直己さんから聞いた通りです。ですが、事故が起きたのには、原因があります」
「それは、バッシングを受けたという親子ですか?」
「ええ、あの少年は……確か、当時6歳でしたね」

 直己は、間違ってないと、うなずく。

「少年は家の前で遊んでいました。その母親は、友人とおしゃべり。よくある光景です。季節は初冬。枯葉を追いかけて……停車していた車の陰から、少年は道路に飛び出してしまったんですよ」
「そこへ、四乃森さんの運転する車が走って来たんですね」
「はい。急ブレーキを踏む音がするまで、母親はおしゃべりに夢中だったそうです。少年をよけようと、直己さんはハンドルを切りました。そこへ、スピードを出して走ってきていた後続車が追突したんです」
「……ああ」

 俺は顔をしかめて、それ以上はいいです、と手をあげた。
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