嘘よりも真実よりも
 後続車に追突された直己さんの車が、手を振る万里の両親に向かっていった……想像がついて、胸が苦しかった。

「凄惨な事故でした。少年の母親は、それはもう叩かれたそうですよ。幸せな恋人たちを地獄へ突き落としたんですから。あの事故をきっかけに、少年の両親は離婚し、行方知れずです」
「清貴くん、行方知れずではないんだよ」

 直己がすぐに否定する。それは真実ではないと。

「本当ですか?」
「あの少年が18になった時、俺に会いに来たんです。詫びて、楽になりたかったのかもしれない。彼は不幸な子だった」
「彼は今、どうしてるんですか」

 清貴は身を乗り出す。

「……劇団にいます。将来が見えないと悩んでいたので、知人の劇団を紹介しました。母親と細々と生活していますよ」
「そうでしたか」

 安堵したように清貴は息をつく。少年の行方を心配していたのかもしれない。

「あの事故のことは、俺と少年が生涯背負って生きていきます。みちるには関わらせたくない」
「だから、みちるに憎まれようとしたんですね。その選択は間違っていたと思いますよ。みちるを間近で見ながら育った俺が言うんですから、間違いないです。一番不幸だったのは、みちるだ。俺はあなたがついた嘘を許せません。万里さんとみちると、三人で暮らしていく道を放棄する必要はなかったはずです」
「みちるは万里と富山さんに大切に育ててもらった。俺では、ダメだった」

 目の前の直己は、無力な男に見えた。輝かしい世界に生きる光など何も持たないような。それでも、清貴は彼を追い詰める。

「本当にそう思ってるんですか? 裕福な家庭に育つことだけがみちるの幸せですか? みちるの心はずっと貧相ですよ。豊かだったのは、家だけです」
「……みちるには、申し訳ないと思ってる」
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