嘘よりも真実よりも
「申し訳ない、ですか。他人事のように言うんですね。……仕方ありませんね。あなたにはもう新しい家庭がある。奥さまだけは大切にしてあげてくださいよ。そうじゃないと、みちるがかわいそうだ」

 清貴はテーブルにこぶしをぶつけた。その感情が本物だろう。本音は、目の前の男をなぐってやりたいのかもしれない。

「みちるに、まだ愛情はありますか?」

 清貴は平静を装って、そう尋ねた。

「当たり前です。責任は感じている」
「じゃあ、ひと芝居打ちましょうよ」
「ひと芝居?」
「そうです。隠し子の存在を認めたら、なんで生き別れたのかマスコミは探りますよ。事故も掘り返されて、みんなを不幸にするなんて、ばかげてる」

 にやりとする清貴は、冷静さを取り戻した、いつもの彼だった。ひょうひょうとする彼を見ていると、なぜだか、大丈夫だと思える。

「それじゃあ、直己さん」

 打ち合わせでもしようというのだろうか。清貴は黒い手帳をポケットから取り出す。

「清貴くん、ちょっと待って。その前に、ひとつ聞いていいかな?」
「なんです?」

 直己はスッと俺に視線を移す。

「彼は、誰ですか?」
「飯沼です」

 即答する清貴に首を振り、直己はジッと俺を見つめる。

「言ったでしょう? 飯沼基紀さんを存じ上げてると。彼はまるで別人の顔をしてる。清貴くんが連れてきた男ならばと、見過ごすつもりだったけどね、事故を知る権利のある青年と聞けば、彼は……そうなのかと勘ぐりたくなる」
「その勘ぐりは正しいでしょう。みちるが幸せになれる唯一の希望だと、俺は信じてますよ」

 清貴がそう言うと、わずかに直己が微笑んだように見えたのは、俺の見間違いだっただろうか。
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