嘘よりも真実よりも



 アザレアホテル1705室のドアをノックすると、しばらくして内側からドアが開いた。

 もうどれくらいぶりだろう。変わらない総司さんが、私を見つけると穏やかにほほえむ。

 何も知らずに、何も知られずにいたら、彼と過ごす幸せな日々は、何事もなく続いただろうと思うと、ざわつく胸の高鳴りも、静まっていくみたい。

「入って」

 彼が道を開けるから、部屋の中へ足を踏み込む。

 夜景が見下ろせる、広々としたリビングルームが私を出迎える。スイートルームみたい。

 間接照明が照らす落ち着いた雰囲気のリビングに入り、大きなソファーへ案内されて、腰を下ろす。

 総司さんも触れ合えるほど近くに座って、そっと手を重ねてくる。

「仕事は落ち着いた?」

 私の嘘を信じてるみたい。総司さんはそう尋ねて、私のほおの上に指を滑らせる。

「……はい。ごめんなさい。本当は、もっとはやく連絡できたんですけれど」
「いいよ。こうやって会えたから、もういいんだよ」

 そう言って、彼は私の目をのぞき込み、ほおに触れさせていた手を後頭部に回して、そのまま顔を近づけてくる。

「ま、待って……」

 彼のほおに手を当てて、遠ざける。キスをしたら、伝えたい気持ちが言えなくなりそうだった。

「だめ?」
「……お話があって」
「キスの後では、いけない?」

 キスをねだる彼は、もう一度唇を近づけてくる。でも、いやいやするみたいに首をふると、困り顔で身を引いた。それでも離れがたそうに、肩に回した腕で、優しく抱き寄せてくる。

「大事な話って、なんだった?」
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