嘘よりも真実よりも
「聞いたよ。全部だ。全部聞いた」
「……そうなんですね。私と付き合ったこと、後悔しましたよね」
「みちる……」

 総司さんは途方にくれたみたいに私を見つめる。

「父の結婚相手の方は、父を人殺しだって言いました。愛し合って結婚したのに、そんな風に言わせてしまう父を腹立たしく感じました」

 淡々と言葉が出た。どこかに感情を置き忘れてきたみたいに。

「動揺しただけじゃないのかな。彼女も、彼を傷つける発言は後悔してるだろう」
「傷つけあってまで、私は一緒にいたいとは思いません」
「間違いは許されないって考えてる?」
「ずっと……ずっとついて回るんです。父は人殺しで、私は人殺しの娘です。死ぬまで、それを知られたくないって、おびえながら暮らすんです。どうして……どうして総司さんを好きになってしまったんだろうって……今は後悔ばかりです……」

 後悔してるのも、泣きたいのも、総司さんだろう。でも、泣いてるのは、私だった。

 涙でにじむ彼の表情が見えない。彼に何を言ってもらいたいのかもわからない。

「別れてほしいです」
「みちる……」
「総司さんを傷つける前に、別れたいんです」

 もう遅い。彼は真実を知って傷ついただろう。それなのに、今なら間に合うみたいな言い方をしてしまった。

「私はどうしたって、総司さんにつり合う女性になれないんです……」

 両手に顔をうずめて泣いた。

 嘘をついたって、真実を伝えたって、行き着く先は一緒だった。

 一点の曇りもない彼の人生を、私が汚すわけにはいかなかった。
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