嘘よりも真実よりも
「みちる、行こうか」

 運転手が門の前に車を回してくれたのを確認すると、仁志さんが手を差し出す。ハッとした私は、反射的に手を伸ばしていた。

 そっと手を握られて、胸が高鳴った。仁志さんの手はとても温かかった。緊張が伝わったのか、彼は優しく目尻を下げた。

「急に誘ってしまったけど、迷惑じゃなかった? 誤解されたら困るよね」
「いいえ。誤解されるようなことなんて、何も……」
「彼氏とは別れたの?」

 仁志さんは飯沼さんのことを気にしてるみたいだった。

「もうずっと前に」
「そう。みちるから離れたの?」
「いいえ、彼から。性格が合わなかったみたい」
 
 困り顔で苦笑いしたら、仁志さんはもっと困ったように眉を下げた。

「みちるはみちるのままでいいんだよ。清貴はよく、もっと自信を持てって言ってるようだけど。みちるが優しすぎるのは、悪いことじゃないよ」
「優しすぎるなんて言ってくれる仁志さんが優しいです」

 ただ自信がなくて、消極的で、誰にも迷惑をかけたらいけないと思って生きてきたら、今の私が出来上がってしまった。

 自信がなかったのは、両親のいる家庭に育っていなかったからだ。富山夫妻は私を娘のように育ててくれたけど、実の母を知る私にとって、彼らはやはり養ってくれる人でしかなかった。

 消極的だったのは、明るく振る舞えば、富山の娘でもないのにと、富山の親戚から叱責されたからだ。相楽万里の娘は、調子づいてはいけなかった。
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