嘘よりも真実よりも
「迎えに来てくれるなんて、思ったことないです。私が生まれた時に見せた誠意が、最後の役割だったんだろうって思ってます」

 それは私にとって、全然誠意ではなかったけれど、私が久我みちるでいられるのは、父親がこの名を授けてくれたからだ。不満はあっても、理解はしている。

「彼がみちるを娘と認めた。それが最初で最後の誠意だなんて、俺は納得したくないと思ったけど、みちるは違うんだね」
「私は相楽みちるではないし、久我みちるでもないんです」
「みちるは、みちるだよ」

 私よりも傷ついた目をして、仁志さんはそう言う。

「万里さんが生きていたら、きっと違っていたね」
「母は我慢しすぎました。おびえて生活するなんて、不幸でした」

 私の父親が誰なのか。
 母はそれを隠そうとしていた。誰にも真実を話してはいけない。小さな私にずっと言い聞かせていた。

 いつか、父親のことが世間に知られてしまうかもしれない。

 その不安が病を呼び寄せ、母の命を削った。だから私は、父親のことをなんとも思っていない。憎んだら、彼を認めることになる気がして、無関心になる道を選んだ。

「みちるは? 富山家に居場所はある?」
「はい。感謝しています」

 許されるなら、一生、富山家で過ごしていきたい。でも、無理なんじゃないかって気持ちもある。あの屋敷に住んでいられるのは、仁志さんが結婚していないからだ。

「感謝か……」

 ぽつりとつぶやくと、しばらく仁志さんは無言になった。

 感謝だけでは、富山家で生きていけないだろう。いつだって私は、誰かのお荷物だった。

「俺ももう、37歳になったよ」

 急になんのことかと驚くと、彼は苦笑する。
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