嘘よりも真実よりも



 みちるは俺に会いに来なかった。
 期待するなと宣言されてはいたが、来てくれるような気がしていただけに、失望は大きかった。

 みちるという名前以外、彼女のことは何も知らない。

 富山家にゆかりがあり、私用で富山仁志に会える女性。さらに言えば、恋人のように身を寄せ合えるほどの信頼を、富山清貴に向けている女性。

 俺の推測が正しければ、彼女は富山家の娘。仁志や清貴の妹だろう。そう考えると、彼女の美しさを裏付ける品性とも辻褄が合う。

 絶対に、欲しい。

 一目見た瞬間に覚えた感情は、ひとりよがりだと非難されようが、俺の中に根付いた思いだった。そのぐらい、彼女は綺麗で、危ういはかなさを持つ可憐な女性で、俺の心を簡単に陥落させた。

「……金城さんっ」

 富山ビルの受付前を通り過ぎようとした時、ささやくような、ひかえめな声に名を呼ばれて足を止めた。

「あ、ああ、椎名(しいな)さん」

 受付の中から、笑顔が可愛らしい女性が小さく手を振る。

 彼女の名前は、椎名彩香(あやか)。去年から、富山ビルの受付嬢として勤務するようになった。

 顔を合わせれば挨拶する程度の関係だが、彼女が俺に好意を抱いてるだろうことは容易に想像がついていた。
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