嘘よりも真実よりも
「しまったな。私用で来たから名刺がない。六花社の編集者をしてる」
「存じ上げてます」
「あ、そう。じゃあ、翻訳の仕事があれば、連絡してくれると助かるよ」
「翻訳ですか」

 話が飛躍する人だ。根っからの自由人なんだろう。

「みちるはね、翻訳の仕事をしてる。文芸やビジネスマニュアルもいけるよ。フリーランスのくせにのんびり屋で、才能の無駄遣いばっかりしてるからね、スキルアップのためにいろんな仕事をやらせたいと思ってる」

 どうやら、みちるは翻訳家らしい。

「金城さん」
「はい?」
「急いでるって言ってなかった?」
「あ、いけない。すみません。もっとゆっくりお話したかったのですが」
「いいえ。少し話せてよかったですよ。なんだか、いい人そうだ」
「はあ」

 いい人ってなんだ。
 みちるからどう聞いてるのだろうと気にはなる。

 いきなりキスするような遊び人と思われても仕方ないが、誰でもあんな風に口説いてるわけじゃないと、誤解してるなら解きたい気分になる。

 情けない顔でもしただろうか、清貴はますますにやつきながら、「応援してますよ」と俺の腕をそっと叩き、面食らう俺を置いたまま、足早に立ち去った。
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